戦後も黒人差別国家だった米国

最近、初期の頃のゴルゴ13を読んでいる。この漫画は歴史が長く、舞台背景は冷戦時代の東西対立まで遡るが、当時の知識が無い若者には不思議な描写もあるかもしれない。

その中で、私自身違和感を感じる描写がある。それはアメリカにおける黒人差別である。漫画ではアメリカの白人が黒人を差別している場面が多く登場するが、現在のアメリカの状況から見ると、多少戸惑いを感じる。アメリカ大統領は黒人であるし、ハリウッド映画でも黒人は活躍している。黒人差別は多少残るものの、アメリカ社会では露骨な人種差別はタブーとなっているのが現状だ。

しかしゴルゴ13に描かれているアメリカの黒人差別は、実はそれ程の誇張ではない。アメリカで黒人が法的に平等な権利を獲得したのは、1964年の事である。ゴルゴ13に連載が開始されたのは1968年であったから、初期の作品には、まだ残されていた黒人差別の場面が登場していても不思議ではない。

さて、1964年というのは、言うまでもなく戦後である。米国が極東軍事裁判において東條英機を死刑にして16年後の事である。アメリカは日本に民主主義をもたらした、というのが戦後教育における評価であるが、アメリカが日本の戦争犯罪を裁いている同時代のアメリカは、黒人が差別されていた時代だった事を忘れてはならない。

日本の戦争と米国内の人種差別とを同時に語るのは、互いに無関係な事象を並列する事であたかも相互が関連しているように錯覚させる印象操作と思うかもしれない。しかし、実は第二次世界大戦と人種差別とは大きな関係があるのである。

日本は人種差別反対をスローガンに戦ったわけではないが、明治維新以降、国民は白人による世界支配に対する挑戦という意識を共有していた。そして、結果論ではあるが、日本の戦いが欧米の植民地における白人支配を揺がせ、やがて植民地独立の時代を迎える上で少なからぬ影響を与えたのである。

日本人が意識していたのはアジア人と白人であり、黒人の差別問題まで意識していた訳ではないだろう。だが、ファシズムの側とされている日本と戦った連合国の多くが人種差別国家であった事は事実なのである。