中国主導で設立されようとしているAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対して、当初は事実関係だけ報じていたメディアも社説で意見を表明し始めたり、評論家達も態度をはっきりさせるようになりつつある。特に日経新聞は社説の中で明確にAIIBへの参加を主張した。しかし、その論拠は「バスに乗り遅れるな」程度の浅薄なものだ。社説の最後でさらりと述べている「非参加国の企業が入札に加われないなど、不利な条件を恐れる日本企業も多い」が本音の主張であろう。
あるインフラ事業が、中国が主導する銀行から融資を受けて実施される場合、日本企業が締め出されるのは当然の事であろう。これは止むを得ない。
日本側の心配は、今後アジア各国のインフラ整備がAIIBの融資によって賄われるようになると、アジアのインフラ市場から日本企業が退出してしまうのではないかという点である。日本の政府はインフラ輸出を重視する政策を進めており、本邦企業の受注機会には敏感である。
しかし、実際にはアジア各国が投資する大規模インフラ事業から日本企業が締め出されるという心配は杞憂である。何故なら、既にそのようなインフラ整備市場から日系企業は退出しているからである。
アジア開発銀行、ADBは日米主導で設立されたと言われている。総裁は代々日本人だ。しかし、そのADBが融資している事業で、日本の企業が恩恵を受けているという話は聞かない。受注合戦で日本の企業は中国や韓国の業者に負けているのだ。
そもそも、日本の外務省に属するJICAの融資でさえ、実態は中韓の業者のために実施されているようなものだ。インフラ事業でまともな国際競争入札をやる場合には、日本のゼネコンは中国や韓国の業者には勝てないのである。
現状、日本に有利なはずのADBやJICAの融資で日本の企業が受注できていない状況で、一体どうして中国主導の銀行が融資する事業に参加できるというのだろうか。日本の参加、すなわち出資は、結局のところ、中韓の業者の受注機会を増やすだけなのである。
もし、日本もアジアインフラ投資銀行に参加すべきだという意見が、アジアでのインフラ受注を狙う経済界から出ているのだとすれば、それは無視すべきである。彼等は、自分達に都合の良いように日本の海外援助の仕組みに介入しながら、結果として海外では大した活動はしていないのである。
日本の企業が活躍しているのは、ADBやら世銀などの国際援助機関が融資する事業ではなく、工業製品の輸出だ。アジアでのインフラ事業で有利になるよう、無駄な努力をするよりも、国内の製造業を支援する方が遥かに費用対効果は高い。