対ギリシャ債権放棄と対アジアインフラ投資の不安

安倍首相は5月21日、アジアのインフラに今後5年間で1100億ドル(約13兆2000億円)をADBと連携して投資すると述べたそうだ。これは日本にとって無益な宣言である。AIIBに対抗したい気持ちは分かるが、インフラ投資は10年、20年の時間で考えるものであり、5年で13兆円の投資は不可能であろう。

アジアは経済成長しているが、それでも破綻リスクがないわけではない。先進国の仲間入りした韓国ですら、IMFの管理下に置かれたのである。今後、AIIBが野放図に貸しつけを進めると予想される中、日本がアジアに貸しつける資金の安全性が問題である。

日本は、これまで発展途上国に対する債権を継続的に放棄している。2000年の沖縄サミットの際には、キリスト教団体が重債務を抱える貧しい国々を救えという圧力をかけ、日本が最貧諸国に持つ債権の完全放棄を要求した。日本はそれに応じる形で重債務貧困国に対する債権の放棄を始めることになる。各国も債権放棄に合意したが、最も大きな損害を受けたのは日本である。

日本はこれまで約1兆円のODAローンの回収を放棄している。今後も増え続けるであろう。大きいのはイラクに対する債権放棄だ。また、ミャンマーに対する債権放棄も大きな割合を占めている(外務省HP)。

イラクに対する債券放棄は、石油利権をアメリカが持っていき、主要な事業を欧米企業が獲得してしまって外交上は失敗だった。ミャンマーへの債券放棄は、ミャンマーの中国離れに一定の役割を果したが、日本の国益に結びついているかどうか、やや不透明な状況である。

欧米のキリスト教団体は、日本がアフリカの貧しい国に融資したお金のせいでアフリカが貧しいのだと批判し、日本に債権放棄を迫った。しかし同じ論法で言えば、現在、ギリシャの生活水準が低下しているのも欧米が金を貸し付けたせいだ。

ギリシャが持つ債務は何十兆円という膨大な規模だ(日本の何百兆円に比べると随分小さいが)。その大半は対外債務であり、EUが大きな割合を占める。

経済が絶好調であるドイツなら数兆円の債権放棄は問題ないだろう。なにしろバルブ崩壊で痛手を負っている日本が1兆円もの債権を放棄しているのだから。すでにギリシャ国債の債権放棄はEUで議論になっている。

ヨーロッパやIMFはギリシャに対して強硬な交渉を続けられているが、もしアジアで日本が債権放棄を迫られるような事態になった時に、同じような交渉できるだろうか。日本の交渉力では、おそらくAIIB債券の保有者は守られ、日本が出血するだろう。

AIIBに対抗して無理筋のプロジェクトに融資してしまわないか、非常に心配だ。早急なインフラ投資により無茶な住民移転や環境破壊が生じたら、それこそ左翼による攻撃材料となるだろう。日本主導の融資にアジア諸国がなびくのは快感かもしれないが、アジアのインフラ投資は冷静に判断すべきである。