中共をナチスにたとえるフィリピン大統領

6月2日から5日まで日本を訪問した来日したフィリピンのアキノ大統領が、3日の都内の講演会で中国をナチスに喩えた。このニュースにギョッとした人も多かったのではないだろうか。

アキノ大統領は、昨年(2014年)の2月にもニューヨークタイムズ紙のインタビューで中国を1930年代のナチス・ドイツに喩え、国際社会の行動を促している。

アキノ大統領が取り上げたのは、1938年にドイツがチェコのズデーテン地方に進駐した事件である。ヒトラーはオーストリア併合後に軍事力を背景としてズデーテン地方割譲をチェコに要求した。仲介役となったイギリスのチェンバレン首相はナチスとの戦争を恐れ、ヒトラーの要求を認めてしまう。その後、ナチスは次々に領土を拡張していった。

では、当時のナチスドイツと現在の中共とは何が共通しているというのだろうか。中国は南沙諸島(スプラトリー諸島)の実効支配を着々と進めている。地図で見れば明白であるが、スプラトリー諸島はマレーシアの北側で、フィリピンとベトナムの間に位置しているが、大陸からは随分離れた位置にある。

中国の領土とは言えない地域に中国海軍が進出し、フィリピンが領有権を主張している島に恒久施設を建設している状況に、フィリピンは大きな脅威を感じている。国際社会が中国に遠慮して何も行動を起さない状況は、まさに1930年代にナチスの拡大を許した欧州の状況に類似しているのだ。

しかし、それにしてもある国をナチスに喩えるとは、ただ事ではない。日本では共産党はじめ左翼が毎回のように自民党の首相をヒトラーに喩えるため、ひょっとしたらヒトラーとは誉め言葉なのかと錯覚してしまうが、国際社会では「ナチ」とか「ヒトラー」というのはとんでもないヘイトスピーチなのである。嫌韓派に「おまえは韓国人みたいだ」と揶揄するどころの話ではない。命を賭けるほどの発言なのである。

アキノ大統領は、さすがに国際感覚がわかっていて、中国をヒトラーだと言って非難しているのではなく、むしろ何もしない国際社会に警告する方に重点を置いている。

とは言え、近年におけるフィリピン国民の対中国感情の悪化は想像以上であることが分かる。

フィリピンでは1991年6月のピナツボ山大噴火により、クラーク空軍基地とスービック海軍基地がアメリカからフィリピンに返還された。中国がスプラトリー諸島で軍事的活動を活発化させたのはその直後であるが、国際社会は傍観したまま、中国の実効支配が強化されていくことになる。

クラークアやスービックなど、米軍関連施設の跡地は、その経済特区に指定されるなど開発が進み、近年における経済成長にも貢献している。しかし、その代償はあまりにも大きく、フィリピンンは領土喪失という事態に直面しているのである。

アキノ大統領がニューヨークタイムズに語った内容を、今年になって日本で述べたことには意味がある。もちろんバランスを考えて安倍首相との会談などではなく、講演会の場での発言ではあるが、そのメッセージは明確だ。中国の拡張主義に対し、日本はナチスの暴走を許したヨーロッパ各国のような傍観者であるべきではない、という事である。

そもそも日本は当事者である。中国は尖閣諸島の領有を明言するばかりか、2013年には防空識別圏まで設定して日米同盟に挑戦してきた。また中国漁船を大挙日本の領海に送り込み、日本への侵略を着実に進めている。

アキノ大統領の任期は2016年までである。安倍首相には来年の参院選が控えている。中国の覇権拡大が明白となっているなか、周辺国の団結を継続できるのか、歴史の大きな転換期にあるのである。