日米安保は、むしろ日本の軍事行動を制限する

今回の安保法制については、保守派の多くはこれを歓迎している。一方で、実は安保法制に見られる日米同盟の強化は、我が国の防衛の自主性を奪うものであり、国防活動はアメリカとの協調が求められるようになる。

アメリカは多くの国と軍事的な同盟関係を結んでいるが、その基本はアメリカ自身の国益である。同盟国の軽率な行動でアメリカが紛争に巻き込まれ、アメリカの若者が危険に晒される事は望んでいない。これは日本との同盟でも同じ事である。

左翼から軍国主義者扱いされる安倍政権であるが、これまでのところ、中国との外交では緊張を高めるような行動は極力避けている。尖閣沖では中国の領海侵犯が相次いでいるが、中国側を刺激するような対抗手段は採らず、国民を失望させている。

これは、アメリカが日本に対して中国との緊張緩和に努めるよう促しているからであり、その背景には日本と中国の小競り合いにアメリカが巻き込まれたくはないという意図がある。

これに対し、日本は必死であり、オバマ大統領に尖閣防衛は日米安全保障条約の枠内であると発言させたが、それでも不安で、今日の安保法制の背景となっている。

日本の安全保障はアメリカの存在によって成立しているのであり、この役割が後退しては、国家防衛にとって危険な状況になる。もしアメリカが日本列島から防衛戦を後退させるような事になれば、日本はむしろ独自の防衛を強化し、尖閣をはじめとする中国の挑発に対して強硬な態度を見せる必要が生じる。

第二次世界大戦後に成立したNATlOは、ドイツの力を封じ込める意味もあった。ドイツに個別的自衛権を認めてしまうと、自衛権を口実に小競り合いをやりかねない。ドイツによる「自衛のため」の行動は信じられないため、集団的自衛権によりドイツの行動を制約したのである。

我が国の大東亜戦争も、自衛のためであった。各国に自衛のための行動を認めたままだと、国際的な大戦争に発展しかねない。このための人類の知恵として集団的自衛権というものが必要となったのである。

今後、日本が軍国主義化する可能性はない。しかし、日本一国だけで日本の国防を維持しようとすれば、現在の非同盟諸国同様、他国の干渉を防ぐために国家の緊張状態を強いられる事になる。紛争防止のメカニズムは自己の国防力のみになり、むしろ戦争の危険性は高まるのだ。

一方、日米同盟の強化は、日本が領土紛争を武力で解決する道を閉ざしてしまう。アメリカからは常に対中対話路線を要請される事になり、逆に中国の方もアメリカの圧力を前に日本との対話を強いられる事になるのだ。

我が国がアメリカの抑制により中国などに強硬な姿勢に出ることが出きなくなる事に、保守派は不満になるかもしれない。しかし、戦争を未然に防ぐ国際的な紛争防止メカニズムとして、日米安保が機能しているのであり、日本とアメリカの軍事的同盟こそが、中国の挑発を抑制し、日中間の対話を進めるのである。