二重国籍者だったフジモリ元ペルー大統領

アルベルト・フジモリ氏は3度もペルーの大統領に選出された日系人で、2009年に禁固25年の刑を言い渡され、現在服役中である。1990年の大統領就任から2000年11月に日本に亡命するまでの10年間、ペルーにおいて治安回復と経済発展という優れた実績を残してきた。

フジモリ元大統領は、2000年の三期目開始直後の汚職疑惑で立場が急速に悪化し、訪問先の日本からFAXで大統領の辞任を表明し、そのまま日本に滞在。亡命生活をおくる事になった。

その際に話題となったのが、フジモリ元大統領の二重国籍問題である。何と、ペルー大統領に3度も選出されながら、日本国籍を保有していたのである。ペルーでは二重国籍自体は認められているが、二重国籍の者は大統領になる資格はない。例外的に、ペルーを植民地としていたスペインとの二重国籍保有者は認められるが、日本の国籍を有するペルー国民は大統領にはなれない。

この二重国籍の話にペルー国民は驚愕し、そして呆れた。当時の私も憤りを感じたニュースだった。法を執行する最高責任者としてペルーの大統領を2期と少々努めておきながら、不正疑惑で身の危険を感じると実は日本国籍も持っていました、という理屈で日本に滞在するとは、卑怯で恥知らずであり、日系人の評判を貶めるものである。私は今もそう思っている。

例えフジモリ氏の日本国籍が正当なものであったとしても、ペルー大統領として10年間も政治権力の座にあった人物である以上、ペルーの法に従うべく速やかに帰国すべきであったのだ。どうしても不当逮捕の危険性があると言うなら、日本国籍を理由にするのではなく、政治亡命という形にすべきであった。

ある国で政治家としての権限を行使してきた人物が、法律上の身の危険があるからという理由でもう一つの祖国に簡単に逃げるような事を許してはならない。もちろん、独裁者からの弾圧から逃れるという意味での亡命は有り得るが、二重国籍を隠蔽しておく理由にはならない。

現在、フジモリ氏は79歳で、まだ刑務所の中におり、刑期が終了する時には95歳になる。罪状は軍特殊部隊が25人の民間人を殺害した事件に関与した事であるが、本人はそれを否定している。ひょっとしたら冤罪という可能性もあるが、大統領の任期中、独裁的な傾向で権力を行使してきた事も確かである。

フジモリ元大統領の登場により、国内テロと国内経済の低迷というペルーの構造的な問題が劇的に解決されたという功績は歴史に残すべきだろう。しかし同時に、二重国籍を隠して大統領の職に就き、様々な国家権力を利用した挙句、実は日本国籍も持っていましたなどと言って、日本国内で日本国民として5年間も保護されていたという点は、政治家として恥ずべき事であると、私は思うのである。