湾岸戦争でミサイルを打ち込まれたイスラエルの教訓

北朝鮮ミサイルに対する避難訓練が相次いで実施されている。国が都道府県に訓練実施を呼びかけているためだ。

メディアでは頭を手で覆ってしゃがむ場面が映し出され、無意味ではないかという意見も紹介されている。今回、襟裳岬を越えていったミサイルは着弾まで約14分であった。そもそも10分弱で着弾するミサイルに対して避難の実効性はあるのかという疑問はある。

しかしミサイル対策訓練は、批判もあるが重要である。わずか数分の行動余地であっても瞬間の判断が出来るかどうかが生死を分ける事もあるからだ。また着弾後の行動も分秒を競う対応で負傷者の命を救えるかもしれない。ほんの少しであっても命が救えるなら、睡眠の邪魔になるアラートであっても十分な意味がある。

もう一つには、非常事態におけるパニックを防ぐために日頃の訓練が必要だという点だ。今は北朝鮮が挑発している段階で、国民もそれほど心配していないが、日本への攻撃が明確になれば、アラート時のパニックによる間接被害が心配である。

1991年の湾岸戦争では、イラクのフセイン大統領がイスラエルに39発のスカッドミサイルを打ち込んだが、死者はわずか14名で、そのうちミサイルによる直接の死者は2名であった。残りの死亡者のうち、7名は防毒マスクによる窒息死、そして5名が心臓麻痺である。

39発のミサイルが着弾してこの程度の死者であったのは、イスラエル国民の国防意識が高かった事も要因の一つである。一方で上記の心臓麻痺による死亡の他、ヒステリー症を発症した者が大勢いた。ミサイルが落下してくるという緊張状態に精神に異常をきたす者が多かったという事である。

ヒステリーを発症した者の数は、イスラエルにパトリオットミサイルが配備された後は激減した。ミサイル迎撃体制が整った事で市民のパニックが収まった事が理由の一つとされている。

日本で心配される事態は鉄道駅など人が集中する場所での将棋倒しといったパニックによる被害だ。核兵器でなければ、固い建物に避難する事で生存率は高まるだろう。屋外であれば、頭を手で覆ってしゃがめば、怪我で済むかもしれない。これには冷静な行動が必要であり、ミサイル訓練は地震の防災訓練同様に、被害の軽減に重要なのだ。

ちなみに湾岸戦争でイスラエルに配備されたパトリオットミサイルは、イラクのミサイル弾頭を一つも破壊できなかったばかりか、パトリオットミサイルの破片による被害も発生したらしい。その後パトリオットミサイルはPAC-3へと改良され、命中率はかなり優秀になったとの事だ。