先進国における保革逆転の奇妙な現象

人類というのは、どんな文明圏であってもほぼ共通した保守思想を維持してきた。それは家族を単位とした共同体の重要性であり、性に対する抑制であり、特に女性に対する役割の限定と貞操の重視であり、道徳の遵守である。

人類の本能に根差したと思われる上記の保守思想が崩壊したのは19世紀から20世紀にかけての事である。これは主として社会主義思想が先導し、第二次世界大戦後はむしろ西側資本主義国が自由と民主主義というイデオロギー闘争の過程で左翼と右翼が協調して古い保守思想から脱却していった。

現在、西側先進国と旧社会主義国、そして中南米などほとんどの国では男女同権思想と女性の解放が一般的になり、肌の露出ぶりだけで判断すると昔の保守思想は絶滅したかのようだ。

現在でも西側諸国にも旧来の保守主義は存在するが、キリスト教原理主義といった特殊な人達だ。一方で現代の潮流を踏まえた穏やかな保守主義というのは存在し、妻の不貞は許さず、娘の無節操や交友には厳しく、性の乱れを嘆き、伝統を重んじる人達はいるものだ。

前置きが長くなったが、今回の着目はドイツの総選挙で第三党に躍進したAfD(ドイツのための選択肢)である。AfDは移民受け入れに明確に反対し、主要メディアでは極右とされている政党だ。極右という表現はともかく、ドイツのウルトラ保守勢力の支持を得た事は事実であろう。

AfDは「自分たちの国と民族を取り戻す」というスローガンを掲げた。これは冷戦時代であれば左翼が掲げていたであろう標語だ。「民族自決権」こそ冷戦時代の左翼の重要な思想であり、この思想によりベトナム戦争や中南米の反米戦争、パレスチナ紛争を語っていたのである。

もうひとつ注目を浴びたのは、「ブルカでなくビキニを」というポスターである。AfDはイスラム文化の浸透が危機であると主張するため、女性が性的に抑圧されず、開放的に活躍できる現代の西欧価値観を守ろうと主張したのだ。

これは、西欧においてはもはや保守派が自分達の主張を通すためには、左翼が主導して築きあげてきた現代の価値観を認めなければならないという、やや悲観的な状況になっているという事を意味する。ポスターではビキニの女性の写真が採用されたが、日本的な感覚では本来なら保守派が眉をひそめるようなポスターだ。

対してもっと奇妙なのは左翼あるいはリベラルと称する者達である。彼等は、自ら獲得してきた女性の自由と開放について、外国人、特にイスラム教徒にだけは多文化共生の名のもとで例外を主張しているのだ。

日本ではあまり報道されないが、ヨーロッパの左翼勢力は今やイスラム教徒の代弁者となっている。キリスト教文化に対しては伝統の変化を求めながら、イスラム教徒にはイスラムの保守思想を容認し、保護しようとしている。

短くまとめると、ヨーロッパでは保守派が女性の開放を訴え、リベラル派が女性の閉じ込めを容認しているという、逆転現象が発生している。これはイスラム教の急速な浸透が影響している。

トランプの当選も、このような西欧の動きを理解しておかなければ理解はできなかった。

日本でも似た傾向がある。保守派は日本の素晴しさを伝えるために現代の自由を主張しているが、左翼は北朝鮮や支那の人権侵害は黙殺している。民族自決権は米帝国主義を批判するための理論であったが、今や右翼が民族自決権を主張し、左翼は日本民族というものを否定している。