金で済む話なら拉致問題はとっくに解決している

北朝鮮による日本人拉致問題は、横田滋さんが6月5日に他界された直後に大きな注目を浴びたが、また下火となりつつある。SNSの普及により、衝撃的なニュースは一気に広まるが、逆に収束も早い。志村けん氏の死亡は武漢肺炎の脅威を多くの日本人に与えたが、人々が緊急事態宣言に疲れ早期解除を望むようになるのに時間はかからなかった。

という事で取り上げるのが遅いのだが、橋下徹氏がテレビで発言したとされる「お金を払って、それで拉致被害者返してくれということしか思いつかない」という点についてコメントしたい。

日本はこれまで北朝鮮に対して経済支援を期待させるような行動をしてきている。左翼による日本国内の世論工作はもちろん、保守派でも拉致問題解決と経済支援を当然のセットとして考えている。そもそも日本国政府が経済支援を拉致問題交渉のカードとして使っていると伝えられている。

日本側に経済支援についての暗黙の了解があるなかで、北朝鮮はどうして拉致問題解決に後ろ向きなのだろうか。経済支援が期待できるなら、北朝鮮も解決に向けた努力をするはずであるが、2014年のストックホルム合意以降、北朝鮮は核実験とミサイル開発に注力し、拉致交渉は消えてしまった。

北朝鮮が拉致問題解決に動かない理由として考えられるのは、拉致の真相が北朝鮮の立場を極めて悪くしてしまうというものだ。交渉が見事うまくいって、拉致被害者が日本に帰国し、日本が北朝鮮に経済支援する事が確実となっても、その過程で露見する真実が衝撃的であるため結局のところ北朝鮮が悪者となり、経済支援の約束も反故になるという可能性だ。そうでなくても金王朝の黒歴史が世界にさらされてしまうという可能性もある。

北朝鮮が重視するのは経済支援よりは体制保障である。経済を好転させても米国の軍事力の前に国家転覆のリスクがある限り安心はできない。その点で拉致被害者は経済支援と引き換えるものではなく、むしろ体制保障のカードだ。

金で解決するなら、おそらく国民は対北経済支援にも納得するだろう。しかし拉致被害者の帰国とはとても引き換えできない隠された何かが北朝鮮にはあるのだろう。