人権方程式(1)

5月下旬に米国で発生した人種暴動事件を契機に、いわゆるBlack Lives Matter (BLM)への同調圧力が巨大な奔流となって世界に波及した。「無関心は罪」的な論法により反人種差別への意思表明を迫る風潮が蔓延したのである。

本来、人権問題への関心は国や集団、個人によって異なる。日本では北朝鮮による日本人拉致の方が人種差別より遥かに深刻な問題であり、香港における言論など基本的人権の侵害やウイグルにおける民族浄化政策の方が米国の国内問題より重大な関心事である。

黒人差別については発信するがチベット問題には沈黙する、あるいは拉致問題の話ばかりしてBLMは話題にもしない、という意見のすれ違いが生じるのは、人によって関心の度合いが異なるためである。同時に無視できないのは思想的偏向だ。

以下の方程式は、上記の事を説明するために考えたものだ。重力モデルのようなものである。

 

優先度(P)=人権侵害度(S)/主観的距離(D)×思想的偏向(B)

 

「人権侵害度」は客観的に図れる指標である。とは言っても相対的要因が含まれるので人権侵害の程度を絶対的な客観性で評価するのは不可能であり、概ね多数の人が了解できる指標を想定している。

「主観的距離」は、人権問題が発生している地域と、評価する主体との間の主観的距離だ。例えばアフリカで発生しているキリスト教徒拉致事件と日本人拉致事件を比較すると、前者の方がDの値は大きくなる。

「思想的偏向」というのは、主に政治的動機から故意にある人権問題から目を背けたり、逆に大きく取り上げたりする程度の事である。香港問題が注目されるのを避けるためBLM問題をことさら強調するような場合である。