半島危機の勝者は北朝鮮

朝鮮半島では今年4月から5月にかけ一触即発という緊張状態が続いた。北朝鮮が今年3月6日に日本海に向け4発の弾道ミサイルを発射したことから始まったもので、北朝鮮の挑発次第ではアメリカが軍事的手段に訴えるという姿勢を見せたためである。アメリカは実際に空母の派遣により圧力をかけ、北朝鮮による更なるミサイル実験や核実験を牽制した。

日本では、4月15日の金日成生誕記念日と4月25日の朝鮮人民軍創設記念日に北朝鮮がミサイル実験をするのかどうかが着目された。米軍の行動から、挑発に対しては本気で軍事的な制裁を加える可能性が濃厚であったからだ。

しかし北朝鮮は挑発内容に工夫を凝らし、アメリカもレッドラインを明確にしなかった事から結局軍事衝突は発生せず、北朝鮮がミサイル発射を継続する状態となった。

結果としては日本が過敏に反応し過ぎたという事だが、これを契機に防衛意識が高まるのは当然であり、今後は過剰反応しなくて済むよう、国防体制を万全にしておく必要がある。

とは言え、今回の半島危機では日本が直接攻撃を受けるという可能性は低い。アメリカも北朝鮮も戦争は望んでいないからだ。軍事衝突が発生する可能性が極めて低い理由は、各国の勝利条件を考えてみると明白である。

北朝鮮にとっての勝利条件は、「核兵器保有国としての地位確立とミサイル開発の継続、アメリカとの直接交渉、そして制裁解除と経済支援の獲得」である。

対するアメリカの勝利条件は「核実験の中止とアメリカ本土まで到達するミサイル開発の阻止」である。

中国は、とりあえず今回の半島危機に関しては「米軍の圧力緩和と日本の国防体制強化の阻止」であり、ロシアの勝利条件は「北朝鮮の脅威を口実とした米軍のミサイル迎撃体制強化の阻止」であろう。

これらの条件は、結局はアメリカと北朝鮮が取引をすれば全て決着する。双方が対話をして北朝鮮は核関連開発を中断し、経済制裁が緩和されるという所で主要国の勝利条件が満たされるのである。

勝利条件が最も厳しいのが日本である。日本にとっては大陸間弾道ミサイルだけではなく、短中距離のミサイル開発も中止されなければ意味がない。北朝鮮の実験の度に日本海にミサイルが着弾するような事態を許容するような決着では完全な敗北だ。しかも日本にとっては拉致問題の解決がうやむやにされない事が重要な条件なのである。
残念ながら、今回の半島危機の敗者は日本となりそうだ。日本海に向けてのミサイル発射が継続され、かつ拉致問題に進展がないまま北朝鮮への圧力緩和という方向で決着するだろう。

今回の件で鍵を握っているのは中国であり、日本が主体的に対応できる事は限定的だが、これを契機に国防体制を強化し、かつ朝鮮総連や国内のスパイ取り締まりを徹底すべきであろう。

もちろんトランプ大統領が常軌を逸する行動に出る可能性もあり、どういう結末となるかは不明だ。

なお、韓国の勝利条件は「北朝鮮のミサイルが日本に落ちて大勢の日本人が死ぬ事」であるが、気にする必要はない。

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