中国のずるさに負けて領土を奪われたフィリピン

スカボロー礁はルソン島の西側に位置し、古くからフィリピンの漁民が漁場としており、フィリピンの排他的経済水域の中にある。2012年、スカボロー礁に中国の漁船団が侵入した事件を大きな契機として、それまで比較的良好だったフィリピンの対中感情が一気に悪化した。

普段は穏やかなフィリピン人が激昂したのは、中国の侵略の仕方を見れば納得できる。

2012年4月、スカボロー礁に侵入した中国漁船をフィリピン海軍が検査したところ、絶滅危惧種のサンゴなどを持っていたため、逮捕しようとした。ところが中国海警局の船が現れ、逮捕を阻止しようとして、両者が睨み合うという事態に発展した。両国の緊張関係は約2ヶ月ほど続き、両国では激しい抗議行動が起きた。

この緊張を緩和しようと努力したのがアメリカで、同6月、米中高官がアメリカで会談し、フィリピンと中国の両国が同地域から撤収する事が合意された。

さて、フィリピンは合意にもとづいて撤収したが、中国はそのままスカボロー礁に居残り、結果として実質的な支配を確立していった。その年のアセアン会議では南シナ海問題が話し合われたが、議長国が親中国家のカンボジアであり、フィリピンの意見は通らず、ASEAN史上初めて共同声明が発表されなかった(中国はアセアン加盟国ではない)。

それまでもこの環礁では度々小競り合いが発生し、何とか収まってきた。危機は何度も回避されてきたが、それは中国にとっては侵略の時間稼ぎであった。そして2012年4月には、中国にとっては機が十分に熟したと判断したのであろう。

その後は最近のニュースに見る通り、中国は昨年からスカボロー礁の埋め立て開始の動きを見せており、ますますこの地域の実効支配を強めている。

スカボロー礁への中国による侵略は、フィリピンだけでなく周辺国も含めて中国への警戒感を強める契機となり、日米同盟の強化とアジア諸国の日本への期待を高める効果をもたらした。

しかしながら、安倍政権は尖閣諸島周辺での日本人による漁業も認めないなど、緊張を避けるほうにばかり動いており、結局とのところは中国の南シナ海における侵略を黙って見ている状況だ。安倍政権であっても中国の横暴を止める事が出来ないという事は深刻に受け止めるべきであろう。

一方でフィリピンではアキノ前大統領からドゥテルテ大統領に代って以降、政権も国民世論も、以前ほど強烈な反中姿勢を見せなくなっている。ドゥテルテ大統領の人権への姿勢をアメリカが問題視していることから、せっかく日米の側についていたフィリピンが中国依存へと移りつつあるようだ。