前回の東京新聞の昭和27年5月17日社説に続き、朝日新聞の昭和27年7月17日社説を引用する。コメントは後日。
治安閣僚懇談会では、最近大都市に続発する騒乱事件と、これに深い関連をもっている一部在日朝鮮人の問題を討議したといわれるが、国警や特審局などの治安当局は、治安を乱すような朝鮮人を適当な方法で隔離すべしとの意向を持ち、強制送還に関する韓国との話合いがつくまで、日本側で強制収容所を設ける必要がある旨を、政府に対し強く要望したと伝えられる。
日本人であると朝鮮人であるとを問わず、日本国内に居住しながら治安を乱すものに対しては、法のしゅん厳なる発動をみるべきことは当然であるが、治安当局の要望している強制隔離の措置は、在日朝鮮人のうち法に触れたいわゆる「望ましからざる朝鮮人」を本国へ送還するまでの過渡的な措置を講じようとするものと思われる。このような強制措置をはたして政府が実行するかどうかは不明であるが、治安当局がかかる措置を実行せざるを得ない事態であると考えていることは、察するに難くない.
在日朝鮮人をめぐる問題は、今日多くの困難をはらんでいる。それは正直にいって、日本にとっても悩みの種である。第一には、朝鮮が南北に分れて今なお戦っており、共産軍対国連軍の戦闘は、休戦協定の妥結にすら達していないのである。北鮮系の在日朝鮮人が祖国防衛の名の元に実力行使に訴えようとする動機は、恐らくこの辺からも発してはいようが、彼らの行動が、この日本において起され、現実に日本の秩序を乱すことは、われわれにとっては言うまでもなく迷惑至極なことである。如何なる理由に出るにせよ、日本国内の秩序破壊の行動に対して断固たる措置を講ぜざるをえないのは当然のことである。
第二に、朝鮮動乱が解決せず、かつは朝鮮の統一が成らない間は、われわれはまず韓国との間に国際関係を取結ばざるをえない。昨秋以来東京で開催された日韓会談では、在日朝鮮人の国籍問題を初め、永久居住権の承認、鉱業権の存続、不法外国人の強制退去の適用、漁業条約や通商航海条約の締結などについて交渉を進めてきたが、在朝鮮の日本人財産の返済問題で壁に突当ったまま、今日では決裂状態になっている。したがって日本と韓国の間には、未だに正常な国際関係が成立するには至ってはいないのである。そこで日本側が出入国管理令に基き、密入国者を強制送還するに際して、「望ましからぬ人物」を合せて送還してみても、韓国側はこれを拒絶して受取らぬのである。日韓会談が妥結しない限りは、強制措置に関する最終的な解決には到達しなわけである。
第三に、在日朝鮮人の経済的基盤が次第に崩れようとしつつある現実である。さきに全国知事会に集った七知事の意見として、去る十一日付の本誌が伝えるところによれば、これらの知事は一様に朝鮮人問題に関する政府の対等樹立を要望しつつ左の如く語っている。「在日朝鮮人の問題についてこの人達がいま一定の職をもつことが難しい事情にあることや、帰りたいと思う故国は南北に分裂し、戦火に見舞われているという気の毒な状態に置かれていることを私達はまず考えてみなければならない。政府も府県や市町村も彼らに職を与えようという配慮をもっとすべきではないか。もっとも在日朝鮮人のなかの極左的な人達とそうでない人との区別はなかなか難しいし、さらに職を与えるにしても地方では失業者がだんだん多くなっている実績から思うように進まないことも事実である」。このように、日本国民自身が困難している中での在日朝鮮人の経済問題であるが、ともかくかかる経済的な困難が横たわっていることも明記しておかなければならない。
一衣帯水の間におかれている日鮮両国は、歴史的に極めて密接な関係にあり、余りにも密接な関係におかれているからこそ、今日のような困難な問題も生じているわけである。問題の解決は、根本的には朝鮮動乱の解決、日韓両国間の国交の回復をまたなければならないが、それまでの過渡的な時期にわたっても、われわれは、日鮮両民族の永遠の善隣友好関係を希望するが故に、極力、紛争の種をまくことを回避したいのである。一部の在日朝鮮人が、いかなる理由であれ、日本国内の法秩序を無視し、直接行動や暴力行為に訴えることは、両国人間の友好関係の持続を念願する見地からしても、憂うべく悲しむべき現象といわねばならない。それは善良なる在日朝鮮人にとっても、はなはだ迷惑に相違ない。治安当局が目論む強制隔離というような非常措置を不要なれしめるよう、一部の過激な分子の自覚と猛省とを、まず求めてやまない次第である。