「コンクリートから人へ」の民主党がAIIB参加を主張する不可解

ニカラグアはコスタリカを挟んでパナマの北にある国である。ニカラグアはパナマ運河に対抗して中国系企業(香港ニカラグア運河開発投資:HKND)にニカラグア湖を通り太平洋と大西洋を結ぶニカラグア運河の建設に関する権利を与えた。全長278km(パナマ運河の3.5倍)に及ぶ大規模事業である。産経新聞の記事によると、現地では反対運動が起きているとの事である。

ニカラグア運河事業は、既存の国際機関による融資では実現困難であろう。何より環境審査が大変だ。HKNDは一応、環境調査を実施しているがニカラグア政府が真面目に評価したとは思えない。少なくともADBや世界銀行などの国際基準からすれば、環境調査の結果が審査を通る事はなかっただろう。

このような事業にADBなどが融資するには、住民説明会を実施し民主的な手続きを経る必要がある。また、事業によって移転を余儀無くされる住民への対策が十分である事も証明しなければならない。これは日本が円借款を供与する場合も同じであり、大規模なインフラ整備には長い準備期間と、準備のための十分な資金が必要だ。

発展途上国は、そのインフラ需要を満たすため、先進国や国際機関による融資に期待しているのだが、一方でやたらと時間がかかり、環境問題に加え民主化やら透明性やら腐敗防止など、色々と余計な事を言われるので不満もある。そこに、彗星のように登場したのが希望の赤い星、アジアインフラ投資銀行(AIIB)なのである。

日本の経済界の中でAIIBに参加すべきという意見があるのは、何かと制約の多い先進国の融資と比較して、中国がやれば迅速な融資実行が可能と思っているからであろう。しかし、それは先進国の左派勢力の努力で環境や人権を重視するようになってきたADBや円借款などのあり方を否定する事でもある。

日本共産党は、かつて日本のODAがリベートを通してアジアの独裁国を支援してきたと批判していたが、中国主導のAIIBでそのような事が起きるとは全く想定していないようで、共産党委員長の志井和夫は日本も参加すべきと主張している。

滑稽なのは民主党の岡田代表で、アメリカが参加しなくても日本は参加すべきだと主張している。もちろん、岡田代表だけではなく、民主党の有力な政治家もAIIBに参加したがっているようで、国会の場でもその方向で政府と対峙している。

民主党は「コンクリートから人へ」という立場であるはずだが、今後アジア諸国でコンクリート構造物をどんどん作っていこうというAIIBの主旨に賛同するとは、一体どういう事なのだろう。むしろADBの機能を強化し、初等教育の充実や制度改革、人材育成などソフト面での貢献を主張すべきなのではないのか。

日本のリベラル派は、「インフラ整備による経済成長が貧困を解消する」という理屈を、インフラで大企業が儲けるだけの国民いじめ、として批判してきたのではないか。日本において、どれだけ多くの都市開発プロジェクトがこのような批判を浴びてきたことか。

AIIB参加派の滑稽な主張の一つに、「日本が参加する事で内部から正しいものにしていく」というようなものがある。そもそも中国が主導する組織に日本が入っていって日本の主張が通ると思っていること自体がお花畑の発想であるが、その論法が成立するなら、そう主張する人達は是非とも自民党に入党して、自民党の横暴を内部から止めて欲しいものだ。

「AIIBの融資案件に日本が参加できない」というのもバカな主張の一つで、そもそもインフラ関係で日本企業は価格競争には勝てない。また中国が収集した情報を日本に与えるとも考えられない。