日中対立を利用する第三国

インドが日本の新幹線をムンバイとアーメダバード間に建設を予定している高速鉄道として採用した。インドネシアでの高速鉄道受注を巡り、日本が中国新幹線に敗北した後であったから、一部のメディアを除き、日本の勝利であるように語られている。

現在、日本は新幹線の輸出を目指して世界各地で中国と受注競争を繰り広げている。政府がインフラ輸出を重視しているから、官僚は必死である。しかし、忘れてはならないのは、これから高速鉄道を整備しようとしている国にとって、日本の新幹線は選択肢の一つでしかないという現実だ。

各国は日本と中国を両天秤にかけている。日本が中国に対してライバル意識を剥き出しにするのは、足元を見られるという事である。「日本が受注した」というのは、それだけライバル国よりも良い条件を提示したという事なのだ。

インドへの新幹線輸出に対し、日本は破格の融資条件を提示したという。1兆4600億円もの円借款を50年後までの返還(最初の15年は据置)、金利は0.1%である。

インフレを考えると、50年間で返済される元本や金利は、受け取る際には価値が下落しているはずだ。インフレを忘れても、仮に市中の利回りが年率3%だとすると、大雑把に計算して受け取る元本と金利の現在価値は約6,100億円である。つまり、融資としてはマイナスであり、しかもその金額は約8,500億円の損である。

もちろん、最初の1兆4600億円のうち、ある程度は新幹線の売り上げとなるだろう。しかしこれだけの事業となると、大半は土木工事や用地買収など、新幹線自体とは関係がない金額が大半であるはずだ。

熾烈な受注競争をしていくうちに、受注が目的化してしまい、発注者側となる国に良いように利用されている、という事はないのか。日本が中国に対抗する意味で、資金の力を借りる事自体には問題はない。しかし、中国への対抗心だけが先行し、日本の国力を忘れてしまうような外交は慎まなければならない。

話はインドだけでは終らないだろう。インフラ整備を餌に、中国に擦り寄る姿勢を見せれば日本から多額の援助が引き出せる。そのような流れを作ってしまってはいけない。すくなくと、新興国や発展途上国では、日本と中国を天秤にかけ、自らの利益を最大化するよう動いている事は理解すべきだ。

たとえ外務省の努力で、ある国の大統領に日本が重要なパートナーだと言わせる事ができても、実際には各国とも国益が第一なのであり、何かあればすぐに中国側に移っていくのが国際政治というものである。

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