中国は何故THAADミサイル配備に反対しているのか

中国が韓国へのTHAAD配備に対して強烈に反対している。昨年(2016年)7月7日に米国と韓国がTHAAD配備に合意した事を発表して以来、中国は韓流締め出しや経済制裁、その他の嫌がらせで圧力をかけてきた。韓国は政変後に左翼政権が登場し、THAAD配備に曖昧な態度を見せ、今年6月末の米韓首脳会談でもTHAAD配備についての意志を明確にはしなかった。

THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)は飛来する弾道ミサイルを大気圏突入段階で打ち落すミサイルである。完全に防衛用のシステムであり、THAADミサイルを攻撃用に利用するという事はあり得ない。韓国の場合は北朝鮮のミサイル攻撃から防衛するために配備するものであり、専守防衛のための兵器と言って良い。

さて、THAADミサイルが北朝鮮ミサイルに対する防御用であるなら、どうして中国は強烈に反対するのだろうか。普通に軍事・政治ニュースに接していれば別に難しい話では無いのだが、咄嗟には答えられない人も多いだろう。

一番単純な理由は、あまりにも単純でありながら、ある特定の人達には思いつかない理由である。すなわち、中国が韓国にミサイル攻撃する際に障害になるから、という理由だ。中国がせっかく韓国の都市を破壊するミサイルを持っているのに、それを無力化されては、将来韓国を侵略する際に不都合である、というのが反対理由だ。

つまりTHAAD配備に反対している事自体が、中国が他国への侵略を準備していることの証拠なのである。中国が領土拡張するため侵略戦争をする上でTHAADは邪魔な存在であるので、THAAD配備に強硬に反対しているのだ。

このことから、THAAD配備をめぐる騒動は中国の脅威を国民に認識させる上で格好の素材であるはずだが、日本政府や保守派はこの件を中国の脅威を証明するものとして宣伝に利用していない。何故かというと、あまりに単純な理由であり、次に述べる理由で反論されるからだ。

将棋で玉を金や銀で固めるのは、相手玉を詰ませるためである。防衛は攻撃の準備でもあるのだ。韓国や日本が防衛力を完璧にすると、アメリカの攻撃に対して中国が報復できなくなってしまう。つまり、韓国が北朝鮮からの核攻撃に備える準備は、米国が中国に先制攻撃を加えるための準備であると、中国側は捉えているのだ。

米中は核保有国であるから、抑止力によって上記のような懸念は無いはずであるが、中国にはそのような発想はない。中国の恐しい所は、相手が核保有国であろうと戦争を躊躇しない点であり、アメリカもそうであるに違いないと思っていても不思議ではない。

日本は北朝鮮によるミサイル攻撃から国土を防衛する必要があり、そのための兵器を配置する必要があるが、それすら中国の論法に従うと許せない行為である。むしろ北朝鮮を攻撃するミサイルや爆撃機の配置なら中国の許容範囲という可能性だってある。

日本では憲法9条が平和を維持していると考えている人が多いが、平和の維持というのは軍事バランスによって成立するものである。専守防衛に捉われる事なく、多様な軍事オプションを可能にする事の方が逆に地域の安定に寄与する。余程の強硬派でない限り、誰も中国を怒らせたいとは思っていない。しかし国防は必要だ。それは周辺国と交渉可能な手段を多く手にしてこと達成可能なのである。

さて、中国がTHAAD配備に反対する理由であるが、第1の理由も正しいし、第2の理由も正しい。前者は日本や韓国の立場であり、後者は中国の立場であるが、両立する話である。しかし強調しておきたいのは、一見すると幼稚な表現、すなわち「中国が将来、日本を侵略しやすいように反対しているのさ」というのが最も核心的な理由である。

中国は太平洋の西半分を本気で支配しようとしている。中国側の膨張圧力により、近い将来の戦争の可能性は高くなってきている。未来にわたって平和を維持するためには、我が国の軍事オプションの多様化が必須なのである。