映画「メッセージ」を見た。ハリウッド映画で原題はArrival。原作は「あなたの人生の物語(Stories of Your Life and Others 2002)」で、その作者はChina系アメリカ人のTed Chaingである。
ポスターに登場する宇宙船?が菓子の「ばかうけ」そっくりというネタにつられて見にいったのだが、ポスターが伝える雰囲気を裏切らない内容で、十分に楽しめる佳作であった。
「メッセージ」では最近のハリウッド映画がそうであるように、中国が重要な役割を果す。これは原作者がChina系であるので自然であるし、そもそも原作がそうなのかもしれない。
近年におけるハリウッドの中国傾斜は顕著であり、最近では「オデッセイ」の中で近未来の宇宙開発では中国が米国と並ぶ地位を占めている描写が露骨であった。「ゼロ・グラビティ」も同様であり、「インデペンデンス・デイ」の続編でも中国の存在感が大きい。
日本人としてはあまり面白くない話ではあるが、ハリウッドが中国の巨大市場に媚を売っているのは仕方がない話であり、中国マネーがアメリカを蚕食している現状では、中国のプロパガンダと割り切って楽しむしかないだろう。
さて、「メッセージ」も同じように中国が登場するが、他の映画ほどには露骨な中国贔屓はなく、不自然なく鑑賞する事が出来た。むしろ中国が好戦的な姿勢を見せている点が物語の鍵ともなるもので、その意味ではバランスのとれたものだったと思う。
しかしながら、この「メッセージ」には、日本人には背筋が寒くなるような恐しい描写がある。映画の舞台は近未来というわけではなく、現在が舞台と言っても良いのだが、中国の軍事力が巨大に描かれているのだ。すくなくともロシアは中国の決定に従う立場であり、その他にキーとなる国は登場しない。それ自体は近年の軍拡路線からすると無理はないのかもしれない。
日本人にとって、この映画のポイントは、中国に登場した宇宙船が何故か上海沖であり、中国が宇宙人相手に中国領土から撤退しなければ攻撃を開始するという強い決意を表明している点であり、そして何よりも現時点では存在するはずのない中国空母打撃群が威風堂々と登場している点である。
日頃から中国の脅威に敏感でない人にはどうでも良い話で、しかも大半の日本人はそうであろう。しかし中国がウクライナから「カジノ施設のため」と偽って購入した空母「遼寧」に加え、国産空母を建造(1隻は今年4月に進水)し空母打撃群の形成を目指している事、そして中国海軍が九州から沖縄に至る第一列島線を突破する事を本気で目標とし、太平洋進出を目指している現実を見れば、中国が「メッセージ」を通して日本人に何を伝えたいかは明確である。
「太平洋は米国と中国で二分する。日本はその現実を受け入れよ」という事だ。映画「メッセージ」で描かれる米中蜜月と中国海軍の存在感が伝える本当のメッセージとはこういう事である。
この映画のアメリカでの公開は2016年11月である。そしてその12月には中国空母「遼寧」が沖縄と宮古島の間を通過し、太平洋に進出した。中国での公開は2017年1月。4月に中国初の国産空母進水。そして5月に日本公開である。
中国の意図を過少評価してはならない。目標を掲げる国家は、高い確率で目標を達成する。かつての日本がそうであったように。