アメリカ時間での8月8日、北朝鮮が核の小型化に成功したとする分析がメディアに取り上げられ、トランプ大統領は北朝鮮に強い調子で警告を発した。このニュースが日本で流れたのは8月9日、長崎平和祈念式典の当日である。
原爆投下記念日では毎年のように犠牲者への慰霊よりも政治利用が優先されているが、今年はとりわけ北朝鮮の急速な核開発が話題となってしかるべきであった。しかしながら、マスコミは、被爆地の長崎市長が核禁止条約への加盟について主張した事を伝えるのみであり、森友・加計騒動で矮小化してきた北朝鮮危機については、あいかわらず小さな扱いである。
マスコミの偏向報道はずっと続いている話であるが、被爆地における北朝鮮への核ミサイル開発への抗議がメディアによって黙殺されたというのなら、まだ救いはあった。しかし驚いた事に、田上富久長崎市長は平和宣言の中で、核禁止条約に賛成しなかった政府を非難する一方、我が国に重大な脅威を与えている北朝鮮の核ミサイル開発については一言も触れなかったのだ。
核兵器禁止条約は今年の7月7日に国連で採択されたものであるが、核保有国が賛同しない以上、実効性はない。本当に機能する条約というのは、冷戦後に米露が進めた核軍縮のようなものを言うのであり、双方の合意の上で膨大な量の核兵器が廃棄された。
今日、核廃絶が困難である最大の理由は中国である。米露が核軍縮を進める中、中国は核軍縮の枠外にあって粛々と核弾頭保有数を増やし続けている。不気味なのは中国が保有する核弾頭の数が全く不明である点だ。米露の場合は核軍縮の都合上、核保有に関する情報は明確である。中国が保有する核弾頭の数を明確にしない状況では、国際社会が核廃絶への道程を示す事は不可能である。
日本に軍事的脅威を与えている中国、ロシア、北朝鮮が核を保有している状況の中で、しかも中国が一体何発の核兵器を保有しているのかも不明な状況で、日本が核兵器禁止条約に賛成するというのは、アメリカが持つ核の抑止力を日本が放棄する事であり、日米同盟を事実上否定し、国防を弱体化するという事である。
仮に日本が核禁止条約に賛成したとしよう。この場合は、アメリカに対し、「中国や北朝鮮が日本に核攻撃を仕掛けてきても、アメリカからは報復するな」というメッセージを送る事になる。アメリカとしては日本に駐留する米軍家族の安全を保障できなくなるから、当然日米安保は解消もしくは縮小する事になる。
この結果として起きる事は、中国による対日軍事挑発の激化である。何しろ、多少露骨な軍事衝突を引き起してもアメリカによる報復を恐れる必要がないのだ。北朝鮮も同様だ。日本をミサイルで威嚇しても、そして実際に打ち込んでも少なくともアメリカによる核の報復はないし、核の傘を否定した日本に対しては通常兵器による報復もアメリカはやる気が無くなるであろう。
つまり、日本周辺での戦争の危機が高まるのであり、被爆者の人々が望む国際平和は益々遠ざかる事になる。日本周辺だけではない、アメリカの核の傘理論が否定されるようになると、より多くの国が自国の安全のため核兵器を保有する事になり、かえって核が拡散する事になるだろう。
核廃絶の第一歩は、これ以上の核拡散の防止であり、そのためには北朝鮮による核ミサイル開発を完全に阻止する事だ。その最も有効な手段は日本が憲法を改正し、軍事オプションを手にする事である。アメリカは対北で手詰りのように見えて、実は日本次第では半島危機の状況を改善できる可能性があるのだ。
次に重要な点は、中国による核弾頭・ミサイル保有状況の情報公開である。中国が隠し持っている核戦力が明確にならない限り、アメリカとロシアは今以上の核軍縮を躊躇するし、そしてインドも核ミサイル開発を継続する事になるだろう。見えない脅威ほど恐しいものはないからだ。
昨日、今日とアメリカではCNNですら北朝鮮の核ミサイル開発がトップニュースである。一方で日本では北朝鮮による脅威には目をつぶり、ひたすら日本の国防を弱体化させんとする工作報道ばかりだ。一体、どこの国のメディアなのか。