現在、北朝鮮の核ミサイル開発について日本は米国の対応を支持しており、どちらかと言えば強硬姿勢側にある。ところが、つい数年前は日本だけが抜け駆けして北朝鮮と対話しようとしていたのである。
安倍政権は拉致問題の解決を期待されて登場し、期待に応えるべく2014(平成26)年5月に北朝鮮との間にストックホルム合意を結び、それまでの経済制裁の一部を解除した。北朝鮮側には拉致被害者に関する調査を実施する事になり、日本側も経済制裁解除の他に朝鮮総連などの扱いで大幅に譲歩している事から、何らかの進展が期待された。
しかし北朝鮮は拉致問題については何ら対応せず、昨年(2016年)1月に第4回目とされる核実験、しかも最初の水爆実験を強行し、翌2月には人工衛星のロケットと称するミサイルを打ち上げた。これに対抗して日本は制裁を強化し、事実上、ストックホルム合意が無効となった。
トランプも金正恩も挑発合戦をしているが、双方とも戦争は望んでいない。これは安倍政権も同様であり、戦争になったら拉致問題の解決は不可能になってしまう。このため米国が軍事行動に踏み切らない口実として、拉致被害者の存在を理由とした日本の国内世論を利用する可能性もある。北朝鮮もそれは認識しており、見えない人質として、ぎりぎりの瀬戸際外交に活用しているのだ。
問題は米朝が話し合いのテーブルにつく際に拉致カードが提示されるかどうか、である。北朝鮮が拉致被害者の現状調査結果が出た、とアナウンスすれば、日本の対北強硬派も対話路線に転向させる事が可能であろう。もちろん北にとってはタイミングが重要であり、ミサイルの脅迫が功を奏して「戦争反対」「話し合いを」という世論が盛り上がるまで危機を演出させる必要がある。
もちろん、今回の米朝対立が拉致問題とは無関係に終結する可能性はある。日本政府が北朝鮮と阿吽の呼吸で絶妙なタイミングの行動を取れなければ意味がないし、米朝が鉾を収めるより良いきっかけを掴むかもしれない。
一番恐ろしいのは、北が既にカードを無くしている事であろう。