「武漢ウィルス」表現の拒絶が招いた対アジア人イトクライム

アメリカではアジア系に対するヘイトクライムが多発しているが、この原因をトランプ元大統領の発言にあるとする主張が繰り返されている。武漢コロナウィルスの事を「チャイナウイルス」と呼んだ事が、アジア系へのヘイトを招いたというのである。中には「武漢ウイルス」という表現すら差別と主張する者もいる。

昨年、というより2019年の12月から発生したパンデミックは、武漢を震源としており、病気については武漢肺炎、ウィルスについては武漢ウィルス、あるいは武漢コロナウィルスと表現するのが理にかなっている。ところが中国共産党とWHOが発生当初の不手際について批判を避けるため、武漢の名称を冠しないようプロパガンダ工作を行い、それに世界が屈してCOVID-19という、不可思議な表現となってしまった。

ウイルスの名称に武漢をつける事が差別的でも何でもない事は、水俣病やら日本脳炎、アフリカ豚熱などの例を出すまでもなく当然の事である。ところが世界中の人々が中国のプロパガンダに流され、武漢ウイルスという表現が人種差別であるという嘘を広めてしまった。

武漢ウイルスが中国で収束し、欧州で感染が急拡大すると、中国共産党は武漢ウイルスに関するフェイクニュースを流し始める。そして3月12日には中国報道官が「ウイルスは米国起源」と発言。2019年10月に武漢で開催された軍人オリンピックに参加した米軍がウイルスを持ち込んだとする米国起源説がその根拠だ。

トランプ大統領が「チャイニーズウイルス」とツイートしたのは3月17日で、中国による責任転嫁に業を煮やした反応である。その後、中国は情報戦を強化し、プロパガンダを展開、一方で欧米、特に米国による中国批判が激しさを増す。その中には修飾語のトリックを使って「日本新型肺炎」と表現した大使館による印象操作も含まれ、官製メディアを通して、武漢ウィルスの中国起源を直接否定するような報道も繰り返される。

武漢コロナウイルスが世界的に蔓延する中、アジア人に対するヘイト感情が高まる。これはごく自然の事であり、日本でも当初は中国人排斥の世論があったし、変なところではインドネシアで日本人がウイルスを持ち込んだという事で日本人排斥の声が挙がった。ちなみに日本では中国人よりも海外からウイルスを持ち込んだ日本人へのヘイトが目立った。

一方で一旦ウイルスが国内で拡散すると、その後は国内の問題となり、感染が全世界に広がると、発生源がどこかという問題は重要では無くなる。

中国人に対する国際的なヘイト感情が高まった直接の原因は、欧米各国による中国への賠償請求である。それも元を正せば中国がウイルス発生時の情報隠蔽や初動ミスを頑なに認めない傲慢な姿勢と、中国こそウイルス対策に貢献しているとする自己礼賛が原因である。

こうして見ると、「武漢ウイルス」という表現を認めず、差別問題扱いにした中国の態度が、当初から中国共産党の無謬性と自己礼賛、そして世論を従わせようとする意図の一部であった事が明白である。

武漢肺炎、武漢コロナウイルス、あるいは武漢ウイルスという表現を早期に確定し、中国政府が感染拡大防止に誠意をもって真摯な態度で対応していれば、世界対中国という図式は生じなかっただろうし、WHOも中国共産党に忖度なく客観的かつ中立的な対応が可能だったろう。

また、早期に武漢ウイルスという表現で決着していれば、後に政治的な意味での「チャイナウイルス」という表現が利用される事もなかっただろう。

今回のパンデミックは武漢から世界に広まった歴史に残る大事件であり、後世にWuhan Coronavirusとして語り継がれるものだ。スペイン風邪でスペイン人を悪く言うバカはいない。日本脳炎で反日運動が盛んになるものでもない。アフリカ豚熱でアフリカ人は豚だと言うアホもいない。「武漢」を隠蔽し、傲慢な態度でプロパガンダを続ける中国の姿勢が対立を招いているのである。