嫌韓を再着火させた慰安婦日韓合意

昨年(2015年)、インドネシアの高速鉄道は中国が受注し、日本は敗北した。これについては、ネットで掲載されている昨年10月17日号の東洋経済の記事が面白い。「インドネシア新幹線、真に敗れたのは誰か」という記事で、「事情を知る関係者」が、「今回の案件は、功を焦った外務省が強く推していた。調査を進めてきた経済産業省は乗り気ではなかった」と明かしたそうだ。

zakzakの記事(2015年11月30日)を読むと理由が分かる。政府は日本の民間企業に努力してもらいたかったが、民間企業の方は採算性に疑問を持っていたのだ。

発足後の安倍外交を見ると、どうも政権側が思い込みだけで外務省にハッパをかけ、無理なものを無理矢理押し通しているような印象がある。新幹線事業に冷静な判断をしている民間企業に対し、国益のために何としてでも受注させようとして焦る姿がその典型だ。

インドの新幹線も出血大サービスの上での受注であり、ゼロ金利融資(ほぼゼロ)による損失を上回る利益が日本企業に得られるか疑問だ。

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恐しいのは原発輸出であり、政府の実績を先行して甘い調査のまま国際約束をしてしまうと、とんでもない事になってしまう。政府は専門家の意見を正しく聞くべきだし、外務省もそうだ。政治に決断力は必要だ。しかし、周囲を見失って狭い世界の住人だけで決めるようになると、それは失政である。

インド新幹線に対する1兆円の円借款、中共の植林事業のための100億円、そして韓国への10億円など、日本の外交は金銭感覚が麻痺しており、国民感情から完全に遊離してしまっている。

昨年末の日韓慰安婦合意は、安倍政権の意図が何であれ、確実に日韓友好の動きにブレーキをかけてしまった。韓国の反日運動は、朴政権が何をしようとも不動であり、今回の合意は、単に彼等の活動を拡大させてしまっただけだ。

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日本での状況を見ると、実は嫌韓ブームは下火になってきていた。2014年に大量の嫌韓本が出され昨年も継続したが、明らかにネタ切れであり、同じ内容の繰り返しだ。慰安婦問題は朝日新聞が誤報を認めた直後は反韓のムードが高まったが、激動の2015年でほとんど忘れられたテーマとなっていた。

普通に世論の動向を見ていれば、今わざわざ慰安婦問題で騒ぎを起さずとも、あと1年程度で日韓関係は改善の方向に進んだはずである。ところが、今回の日韓合意で慰安婦問題を再提起するきっかけとなってしまった。

今後は政府間で友好ムードを演出するようになるだろうが、より一層活発化した韓国の反日活動に、一般の日本人で新たな嫌韓派が登場するだろう。

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