Diamond Onlineに、「豪潜水艦受注レースの障壁となる官民の“温度差”」という記事が掲載されている(1月13日)。タイトルが示す通り、官民の間でオーストラリアの潜水艦受注に向けての情熱が違うという内容だ。
オーストラリア側が、潜水艦は現地生産として国内雇用を増やすべきという姿勢を明確にしてきたため、ドイツとフランスが現地生産を売りに営業を強化し、焦った日本も現地生産を提案している。
しかし、これは日本政府による提案であり、機密情報の塊である そうりゅう型潜水艦のどの部分を技術提供するのか、民間側は全く把握できていないという。「とにかく受注」という官側の姿勢に、製造を担当する民間企業は全く戸惑っている様子だ。
このブログでは、もともと日本の潜水艦の対オーストラリア輸出には反対だったが、今回のDiamond Onlineの記事には本当にあきれてしまった。日本政府がインフラ輸出で犯している間違いを、こんな所でも犯しているのだ。
関連記事: 反日リスク豪州への潜水艦売却はブーメランとして返ってくる
インドネシアのジャカルタ、バンドン間の新幹線輸出でも同じように官側が熱心で、採算性に疑問を持つ民間は冷やかであった。結局この話は中国が受注するという、日本にとっては表面上は悔しいが内面はホッとする所に落ち着いた。もちろん、安倍政権にとってはショックだったろう。しかし、事情を知る者たちには胸を撫で下ろす結末であった。
関連記事: 共産主義者と新興国の参入で傷む資本主義
安倍政権は、トップセールスの成功のため、湯水のように日本の資金を受注のために浪費している。ムンバイ・アーメダバード間インド新幹線はその極地であり、1兆円の資金を、ほぼゼロ金利で50年返済という、金銭感覚が麻痺したとしか思えない条件で与えている。今年貸し付ける1兆円と、50年後に戻ってくる1兆円では価値が全く違うのである。
関連記事: 日中対立を利用する第三国
通常、首相や大統領のトップセールスでは、企業が裏で画策していて、場合によっては多額の資金が政府サイドに流れるという、政治と民間企業の癒着がある場合が多い。しかし安倍政権のトップセールは全く異質のものだ。つまり、政権側が一所懸命に受注を目指し、民間や本当の事を知っている官僚は渋々従っているのである。民間にとっては儲けにならないどころか、国にあれこれ介入されて迷惑なのである。
原発輸出でも同様の現象が起きている。ネット情報だと原発輸出については左翼系の記事ばかりなのでバイアスがかかるが、それでも企業側が及び腰になっているのは確かだろう。東芝は米国で受注した事業が塩漬け状態であり、三菱重工はアメリカで9300億円の賠償を請求されてしまった。政府が笛吹けど、易々とはリスクを引き受ける状況ではないのである。
安倍首相の無理筋トップセールスに腰が引けているのは、民間企業だけではなく、官僚たちもそうであろう。彼等は民間と直接接して情報を入手する事が多く、本当はストップさせたいと思っている事業もあるはずだ。
残念ながら、今の安倍政権には声高に国会デモをするような反対派の存在は知っていても、周囲の物言わぬ紳士たちの意見を聞くことはないようだ。裸の王様になったと言える。