「ジェノサイド」は日本語では「集団虐殺」と訳される事が多い。このため、集団的な虐殺行為が不明な中国共産党によるウイグル人弾圧について、日本国内では「集団虐殺」認定が難しい状況にある。
「集団虐殺」の文字通りの定義は、(1)大量に、(2)残酷な方法で、(3)殺害する、という事になるが、これでは欧米各国が、強制収容所を含むウイグル人に対する弾圧をジェノサイドと認定している理由が良く分からない。
ジェノサイドという用語は20世紀に出来た新語で、特定の集団を絶滅させる事を最終目的とした様々行為を意味する。そして、その行為としては、虐殺だけではなく肉体的・精神的危害や出生防止なども含まれ、強制収容や移住、隔離が手段として挙げられる。
ただし、ジェノサイドとして連想される事件は、ナチスドイツによるユダヤ人殺害やルワンダ虐殺など、大量殺害を伴う行為に限定されている。また集団殺害があったとしても、オスマントルコによるアルメニア人虐殺をジェノサイドと呼ぶ事にトルコが反対するなど、ジェノサイド認定は難しい。
アメリカはトランプ政権が中国によるウイグル人弾圧をジェノサイドと認定し、バイデン政権もこれを踏襲している。大量殺害の実態はないが、収容者100万人と推計される強制収容所の存在と様々な人権弾圧の結果として認定した。
一方、日本政府はウイグル人弾圧をジェノサイドとは認定していない。アメリカが根拠としているウイグル人弾圧自体を無いとする立場なのか、それがジェノサイドに該当しないという立場なのかは不明であるが、報道等を総合すると「ジェノサイド条約に加盟していない」からだという事らしい。
ジェノサイドという用語は、チャーチルの「われわれは名前の無い犯罪に直面している」という演説に対応している。これは「ジェノサイド」という新語を考案したレムキン自身の説明だ。もし中国によるウイグル人弾圧がジェノサイドでないとしたら、それこそ「名前の無い犯罪に直面している」状況である。特に日本語の世界では、適切な訳語が無い状況であり、ジェノサイドに対する正しい日本語を作る必要があるだろう。