左翼の「平和的解決」とは何を目指すのか

今回も北朝鮮の核ミサイル開発について。

米国主導の圧力方針に対し、日本の左翼は「話し合い」、「平和的解決」、「外交による解決」、「対話」など言い方は様々であるが、要するに武力オプションや経済制裁など北朝鮮を圧迫する様々なアクションに反対している。

ところが、彼等は「対話」の具体的内容については何も触れない。ただ話し合いせよ、と繰り返し、米国や日本国政府の対応を批判するだけだ。

それには理由がある。第一に大半の左翼は単なる理想主義者で、憲法9条があれば平和が維持されると夢見る以上の事が出来ないという点である。そして、もう一点は「対話」の着地点を言及した時点でダブルスタンダードがばれてしまうからだ。

現在、アメリカや日本は既に対話を開始していると言ってよい。当方の主張は伝えてある。それは北朝鮮による核ミサイル開発の即時停止だ。これに応じていないのは北朝鮮側の問題であり、この状況で「対話」を主張するとは一体どういう事なのか。

実は日本の平和主義者達が主張する間でもなく、アメリカは対話の次のステップを真剣に考えている。そして、それは日本国政府も同様であり、現実主義的立場の保守派も同様だ。

その一つは、北朝鮮を核保有国として認めたうえで、核拡散防止条約の枠組みに取り込むとともに、核ミサイル開発の制限を課すというものだ。北朝鮮に対する譲歩としては、核保有国としての扱いの他、平和条約の締結や経済支援もオプションとして考えているだろう。

一方、左翼の主張する対話、平和的解決とは一体何なのか。日本共産党は核全廃を主張している。長崎市長は日本国政府に対して核禁止条約に参加せよと主張した。おそらく、平和的解決を主張している言論人のうち、核廃絶を主張していない者は誰もいないだろう。

それを考えると、左翼が「対話」の結果として北朝鮮の核保有容認を落とし所とする事は考えられない。彼等が目指すものは「対話」によって北朝鮮の核保有を断念させる事であるはずだ。でなければ、核兵器に関して深刻なダブルスタンダードになってしまうからだ。

ドイツのメンケル首相やロシアのプーチン首相が平和的解決を主張している裏には、北朝鮮が核保有となっても自国には影響がないという判断であり、つまりは北朝鮮の核保有を認めてでも軍事行動はするな、という事だ。

日本の左翼は「対話」を主張するなら、同時にその着地点も明確にしなければならない。現時点での対話とは、北朝鮮の核保有を認める事と同義であり、対話を主張する左翼は、もはや核廃絶だの核禁止条約加盟などは主張できない。

核弾頭搭載の弾道ミサイル実験はあり得るか

前回記事では、北朝鮮の次回のアクションについて分析してみた。東京上空のミサイル通過と日本領海への落下が次回の突破ラインと予想しているが、より重要なのは大気圏内への再突入だ。たとえ日本のEEZや領海内に何かを落下させても、直前に燃え尽きたとなっては核ミサイルが完成した事にはならない。

では大気圏再突入の次は何であろうか。そこで対話が成立せず、北朝鮮が暴走するとしたらどこまで行くだろうか。国際社会が尚も軍事的解決に反対するかもしれないと北朝鮮が判断するギリギリの線が何かという事だ。

その一つとして考えられるのは、大気圏での核実験、それも弾道ミサイルに積んで飛ばし、大気圏に再突入させて爆発させる実験だ。今迄これをやった国は三カ国しかない。米国、ソ連、中国である。

日本の左翼の中には、北朝鮮の核実験も悪いがアメリカも散々核実験をやってきたでないか、と変な形で北朝鮮を擁護する者がいる。この論法でいくと、北朝鮮の立場からすれば、既に米露中が実施した事と同じ事をして何が悪いという事になるだろう。

米国、ソ連、中国の場合は中距離ミサイルによる実験だったが、北朝鮮が上記の実験をするには北太平洋まで飛ばす必要があり、必然的に長距離ミサイルとなる。中距離ミサイルだと日本近辺で核爆発となってしまうからだ。方向としては、8月29日のミサイル軌道に似たものとなるだろう。太平洋で海しかないところと言えば、日本と米国の間であろう。

長距離弾道ミサイルで核爆発を起せば、北朝鮮は歴史上ICBMで大気圏再突入させての核実験を成功させた最初の国となる。

ただし陸地が全くないエリアであっても貨物船や中国の漁船は通航している。太平洋で核爆発を起こすような事があれば、国際社会から強烈な非難を受ける事になり、国連の集団安全保障が発動されるだろう。

このため、上記のシナリオには無理があるが、核兵器による報復能力がある事を証明する事ができればアメリカとしては全てのミサイル発射施設を一気に潰すしかないため、可能性としてはゼロではない。

北朝鮮が核弾頭つきの弾道ミサイルを発射する可能性は非常に低いが、国際情勢の中でそれを強硬しても米国による軍事行使が正当化されない雰囲気であれば、可能性はゼロではない。

 

半島危機の第一ラウンドは北朝鮮の完勝

数ヶ月前には北朝鮮が弾道ミサイル実験や核実験を強行した場合には朝鮮半島で戦争が勃発するかのような緊張感があったが、9月3日の核実験により、半島危機の第一ラウンドは北朝鮮の勝利に終わった。このタイミングでの開戦は国際社会の支持を得られにくく、アメリカにとってはリスクが高すぎるからだ。

アメリカも当初は強硬な姿勢を見せていたが、対話の可能性を示すなど立場がふらつき、北朝鮮の絶妙な挑発の前に動きが取れず、最後にはレッドラインと言われていた核実験を許し、米国にとってのレッドラインを後退させてしまった。

アメリカは短期間でイージス艦を2隻も壊すという失態を犯し、米韓合同演習も規模を縮小させ、さらにハリケーン災害への対応で北朝鮮への軍事圧力を弱めていた。そのような中、ドイツのメルケル首相は軍事解決反対のメッセージを送り続け、北朝鮮が安心して核実験できるような環境が整ったのである。

ここまで来ると次のステップは日本の左翼が望んでいた対話だ。双方とも面子を保ったまま戦争回避に向けた対話への模索が始まる。しかし、それは北朝鮮の高い野望のため常に戦争の可能性を秘めたままのプロセスとなるだろう。

北朝鮮は、国際社会が開戦止むなしとは判断しないギリギリの所は常に探り続けるだろう。できれば対話の前にあと少し既成事実化しておきたい事があるからだ。

現在獲得しているのは、(1)核実験、(2)日本の排他的経済水域への着弾、(3)日本上空を通過させてのミサイル実験、(4)米国本土に到達するのかしないのか専門家の意見が分かれる程度の弾道ミサイル実験、(5) SLBM実験である。

これを超える挑発ラインとしては、(a)東京上空を通過するミサイル実験、(b)大気圏再突入の成功、(c)日本の領海内への落下、(d) SLBMの長距離化、(e)米国本土に着弾する事が証明できるミサイル実験である。

このうち(e)については、アメリカが本気で開戦する可能性があるため、先に(b)を達成させると予想される。残念ながら憲法9条の制約があるため、(a)と(c)のラインは大気圏再突入の技術開発が完了するまでの余興として簡単に突破されるだろう。SLBMについては戦略上重要であり、開発を継続する事になる。

半島危機に過剰反応する平和主義者たち

最近、北朝鮮の核ミサイル開発に対する日本国政府の対応を批判している左翼言論人や芸能人が目立つが、明らかに冷静さに欠くヒステリー状態であり、左翼を敵視する私から見ても気の毒で、同じ日本人としていたわってあげたい気持ちになるくらいだ。

その一つにミサイル発射にJアラートを適用する事に対する批判があって、その内容も様々である。中でも滑稽なのは、「過剰反応するな」という過剰反応をしている連中である。憲法9条への信仰と現実の間にあって、頭の回路がぶち切れているようだ。

Jアラートに関しては、地震や津波と違い、北からの弾道ミサイル発射には警報が鳴って数分しか余裕が無く、無価値であるという意見がある。

しかし弾道ミサイルの警告体制に資金を投じる意味はある。たとえ数分であっても「死後の尊厳」を守るには十分な時間だ。ガレキの下からトイレで排泄中の状態で発見されるより、きちんとした身なりの状態で発見される方が死後の尊厳を保てるであろう。数分もあれば用を済ましてズボンを穿くのには困らないだろう。

もちろん、生きる事が最重要である。現在の情勢において北朝鮮が核弾頭搭載ミサイルを直接日本に打ち込む可能性は低い。一方で北朝鮮は威嚇と実験を兼ねたミサイル発射を続けており、実験的要素がある以上、コースを外れて日本の国土を直撃する危険性がある。

模擬弾頭であれば、Jアラート後の対応で生存率を高める事が可能だろう。巨大な物体が何百キロ上空から落下してくるのだから、落下地点は甚大な被害を受ける事になるには間違いない。着弾地点周辺では、弾頭に弾薬が積んで無くとも衝撃で様々なものが飛散する事になる。このような事態に対しては数分の行動で生死を分ける事もある。

北のミサイルに対してJアラートが機能するのは、アメリカの監視衛星のおかげである。日本の技術がいくら高くても、そしてスパイ衛星をいくら飛ばしていても、アメリカの早期警戒衛星による情報収集が無ければミサイルの発射を検知する事はできない。

アメリカが早期警戒衛星網を構築しているのは、核抑止力を維持するためであり、その意味で北のミサイルに対する日本の防衛は米国の核の傘に依存しているのである。

現在、理性を失った左翼は「過剰反応するな」という過剰反応を起し、「対話」を連呼している。しかし北が目指しているものは核兵器と弾道ミサイルの保有であり、その国際的な承認だ。対話が時間かせぎでしかない状況で、左翼は対話の中身すら示せず、右往左往して現実から逃避している。

平和的解決やら対話やら口にするなら、その具体的内容を説明してもらいたいものだが、北朝鮮の主張を全面的に受諾するという主張以外の具体案は、左翼の側からは何も提示されていないのだから、情けない話である。

北朝鮮のミサイル発射に発狂する左翼

作家の島田雅彦がTwitterで「金正恩に小遣いやって懐柔し、 日本を射程から外してもらう方が安上がり」と発信した事がJ-CASTニュースで報じられた。

Twitter全文は「PAC3に116億、Jアラートに92億を払うより、金正恩に小遣いやって懐柔し、日本を射程から外してもらう方が安上がりで確実なミサイル防衛になったりして。ロシアや中国はそれくらいの裏技を使っているだろう」である。

116億円+92億円=208億円で、それより安上りと言っているのだから、約200億円の小遣いを想定しているのであろう。

この発言は炎上したようだが、実は半島危機の本質を見事についている。ただし、桁が間違っている。しかも1桁ではない。2桁だ。いや、ひょっとしたら3桁かもしれない。

北朝鮮は核兵器と弾道ミサイル開発に膨大な投資をしている。国民の大半を飢えさせ、かつ国際社会からの非難も浴びてまで進めている開発である。高々200億円で日本を射程外にしてもらうなど、金正恩からすればあまりにも人を馬鹿にした話だ。

日本を核ミサイルで脅せば、数兆円の金蔓になろうというのに、何故200億円ぽっきりで止めなければならないのか。北朝鮮は笑う気にもならないだろう。

ここ数日、メディアや評論家達が「話し合いを」の大合唱である。左翼にとっては、核兵器の開発を進める方が絶対悪であるはずなのに、何故か北朝鮮よりも日本国政府の方が悪者扱いされている。

そもそも、「話し合い」こそは北朝鮮の最終目標である。左翼がギャーギャー騒ぐ事でももなく、余程のアクシデントがなければ最後には話し合いに行き着く。現在の危機は有利な条件で話し合いのテーブルにつきたい北朝鮮が主導権を握って演出しているものだ。

北朝鮮は話し合いを有利に進めるための条件が成立するまでは、米韓がいくら呼びかけようが、話し合いに応じる事はない。その条件とは核兵器の保有と核弾頭ミサイル技術の完成であり、これまでの投資の成果を無駄には出来ないのだ。

日本の左翼が望む「話し合い」のためには、これらの条件が成立するのを待つしかない。今のところ北朝鮮が、話し合いを呼びかけている韓国の文大統領を無視しているのもこのためである。

北朝鮮の対話相手は米国であり、日本から話を呼びかけたところで門前払いされるに決まっている。まして200億でどうでしょう、などとふざけた打診しようものなら、かえって態度を硬化させてしまうだろう。